交通事故をめぐる諸問題④~被害者側の過失
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【被害者側の過失とは?】
被害者本人に過失がなくても、過失相殺されることがある、ということです。
例えば、タクシーに乗っていて、タクシーが運転を誤り、他の車と衝突しても、通常の方法できちんと乗車している限り、乗客には過失はありません。
ところが、夫が運転している車に乗っていて、夫が運転を誤り、他の車と衝突した場合、通常の方法できちんと乗車している妻に対する賠償にあたり、夫の過失が考慮される、ということです。
個人責任の原則の下で、このような他人(夫といえども他人です。)の過失を考慮してよいのか、
考慮してよいとしても、どの範囲まで考慮するのか、
という議論があります。
【実務の考え方は?】
民法722条2項
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」
について、
最高裁判所昭和34年11月26日判決は、民法722条2項の過失とは、単に被害者本人の過失だけでなく、広く被害側の過失をも含む趣旨と解するのが相当である旨、判示しています。
交通事故の損害賠償にあたって、
被害者にも過失があるとして、過失相殺がされることがしばしばありますが、この過失とは、被害者本人の過失のみではなく、本人以外の「被害者側の過失」も含まれる、と考えるのが実務です。
【どの程度の関係があれば被害者側の過失として過失相殺されるのか?】
「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」(最高裁判所昭和42年6月27日判決)といえるか、ざっくり言えば「財布は一つ」と言えるか等を基準として判断されます。
この論点では、裁判例が比較的集積されており、具体的事例の判断においては、裁判例が参考になります。
裁判例(下級審裁判例を含む。)が出ている具体的事例をいくつか挙げると、
・幼児が死亡した場合の父母→被害者側の過失肯定
・4歳幼児が死亡した場合の引率中の保母→否定
・夫が妻を同乗中に対向車と衝突した場合の夫婦→肯定
・婚姻中に事故に遭ったが、その後に離婚した場合の夫婦→否定
・運転者と被害者が恋愛関係にある場合の運転者→否定
・内縁関係にある場合の夫婦→肯定
・婚約中に事故に遭った場合の婚約者→否定
などがあります。
夫婦については、「夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができるものと解するのを相当とする」(最高裁判所昭和51年3月25日判決)との判断枠組みも、実務的に非常に参考にされています。
【保険会社や保険会社側弁護士の主張をうのみにしないようにしましょう】
現実には、
保険会社から「無償で同乗していたから賠償金を減額する」と主張されたり、
裁判の中でも、裁判例をみると被害者側の過失が否定されているケースで、保険会社側弁護士が「被害者側の過失が成立する」と主張するケースがあります。
被害者側としては、
裁判例を丹念に調査し、当てはまる裁判例がない場合には、被害者側の過失が認められた根拠に遡って、類似裁判例を援用しつつ、反論するのが適切と考えます(稲葉弁護士の私見)。
なお、
「無償で同乗したというだけでは、賠償金の減額根拠たり得ません」ので、
保険会社の説明をうのみにせず、交通事故の取扱経験が多い弁護士などに、ご相談されることをお勧めします。
【参考文献】
塩崎努ほか編著「【専門訴訟講座①】交通事故訴訟」503~506頁(民事法研究会、2008年)
鹿士眞由美弁護士執筆部分「交通事故相談ニュースNo.23」2~5頁(日弁連交通事故相談センター、2009年)
ほか