物損の事故解決にあたって②~車両所有者でなくても、修理費用相当額の損害賠償請求は可能なのか?
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【問題の所在】
交通事故の物損の解決において、
車両所有者でない方から、修理費用相当額の損害賠償請求が可能なのでしょうか?
普段はあまり意識されておられないと思いますが、
自分の自動車であると思っていても、毎月、リース料を支払っていたり、ローンで買って毎月弁済しているような場合には、車検証をみると、実際の所有者は、リース会社であったり、ローンを組んだ金融会社であったりして、
自分は使用者である、という場合が、しばしばあります。
熊本を中心に、物損も含めて、交通事故事件を多く解決してきた弁護士の経験から言うと、
「保険会社との示談交渉では、この点が、あまり問題にされることはありません。」
しかし、
何らかの争点があり(過失割合の場合が多いです。)、
保険会社との示談解決よりも第三者(公平な立場にある裁判官)による解決が妥当と考えられたため、
熊本地方裁判所ないし熊本簡易裁判所などの裁判所に訴訟提起を行った場合や、
修理費用相当額のみならず評価損を請求するような場合には、
車両の所有関係が問題とされてしまう、という経験がしばしばあります。
(評価損については、改めてご説明する予定です。)
【原則は?】
所有者ではないので、加害者に対して、当然には、修理費用相当額の損害賠償請求はできない、というお答えになります。
しかし、実務的には、
「多くの場合は、原則どおりには動いてはいません。」
東京地方裁判所民事第27部(交通事故の専門部)の裁判官による、平成28年の講演では、下記のとおり、論じられています。
東京地方裁判所交通部の考え方は、実務的に非常に影響が大きく、
下記のとおり考えておけば、多くの場合に対応できるものと思われます。
(担当:川原田貴弘裁判官。公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」2017年版・下巻(講演録編)55頁以下収録)
【(1) 使用者が修理をされて、修理費を支払われた後に、ご請求される場合】
被害車両の使用者は、
①加害者の過失によって、自らが使用する車両が損傷したこと
②自らが当該車両を修理して、修理費を支払ったこと
を主張立証すれば、修理費用相当額の損害賠償請求が認められる。
法律的には、
車両所有者が加害者に対して有していた修理費用相当額の損害賠償請求権を代位取得すると構成します。
条文としては、民法422条の類推適用となります。
なお、弁護士費用や事故日からの遅延損害金の請求をする場合には、民法709条による損害賠償請求という法律構成を取ります(続の(2)をご参照下さい。)。
民法422条(損害賠償による代位)
債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。
(以下、次回以降に続きます。)