交通事故における過失割合をめぐる裁判例①~優先道路側の過失割合がゼロとなる場合(名古屋高等裁判所平成22年3月31日判決)
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【交通事故を扱う上での弁護士の問題意識】
熊本県内を中心に、交通事故事件を多く扱っていると、過失割合について弁護士相談を受けることがよくあります。
過失割合が10%や20%といった場合、若干の過失を取られるほうとしては、
「どうして自分にも過失があることになるのか?」
と疑問をもたれることが多いです。
相手方の保険会社は、そのような場合、
「動いているから過失がある。」
という説明をしばしばしているようです。
しかし、当然のことながら、
「動いていること自体は過失ではない。」
ので、おかしな説明です。
【名古屋高等裁判所の判断】
さて、
四輪車同士の事故のうち、
信号機により交通整理が行われていない、十字路交差点における、直進車同士の出合い頭事故では、
一方が優先道路の場合、
優先道路を走行する側にも、基本過失割合が10%とられることが多いです。
この点、
名古屋高等裁判所平成22年3月31日判決は、被害者側(過失の少ないほうを被害者側と呼ぶことにします。)が、過失割合を争うにあたって、参考となる判断を示しているので、以下、ご紹介します。
この高等裁判所判決の要旨は、下記のとおりです。
・ 優先道路進行車には、問題となる交差点を進行するにあたり徐行義務は課されておらず、問題となるのは前方注視義務違反である。
(参考条文:道路交通法36条3項、42条、36条4項)
・ 優先道路進行車は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務はないというべきである。
・ 本件では、事故態様に照らし、上記特段の事情は認められない。
・ よって、優先道路進行車に前方注視義務違反があったとは認められず、非優先道路進行車側の過失相殺の抗弁は理由がない。
【弁護士の見解】
もっとも、この事例では、一審判決(地方裁判所での判決)では、優先道路進行車に10%の過失を取っています。
しかし、この高等裁判所判決は、具体的に過失の内容を検討した上で、優先道路進行車に過失を否定しており、安易に、被害者側にも若干の過失を認めるきらいのある裁判所の傾向に、一石を投じる裁判例と考えます。