③ 被害者が、事故発生の約9か月後に肝不全のために死亡したが、賠償金算定における逸失利益の計算対象期間は10年間としました
【鹿児島地方裁判所鹿屋支部の逸失利益の計算対象期間】
本件事故では、
被害者が症状固定時に65歳であることから、
平均余命の2分の1である「10年間」を逸失利益を計算する対象となる「労働能力喪失期間」と認定しました。
この部分は、いわゆる教科書的な認定といえます。
結果として、計算される逸失利益の金額は、約4240万円となっています。
【被害者は、本件事故がなくても、近い将来に死亡したのではないか?】
本件事故の被害者は、事故時点で胃癌をわずらっており、
大学病院の医師によると、
胃癌→(転移性)肝癌→肝不全→死亡
に至った、とのことでした。
とすれば、本件事故が発生しなくても、被害者は、近い将来、死亡すると考えられ、労働能力喪失期間も、死亡すると推定される時期までとなるのではないか、との疑問が生じます。
保険会社側は、この点を主張しました。
【鹿児島地方裁判所鹿屋支部は、一般的な癌の進行経過に照らした「死亡の可能性」があるだけでは、労働能力喪失期間は制限されない、と判断】
この点、鹿児島地方裁判所鹿屋支部は、
「逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、上記交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、上記死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当」としました。
この判断は、最高裁判所の立場ですので(「貝採り事件」、最高裁判所平成8年4月25日判決、民集50・5・1221。いわゆる「継続説))、目新しいものではありません。
※「解決ガイド」における参考記事
「交通事故後、こんなときどうなる⑤~交通事故で後遺障害を残した被害者様が、示談前にお亡くなりになった場合」参照
https://www.5225bengoshi.com/guide/detail/masterid/62?start=45
事例判断として、
・事故の約1か月後の時点で、肝実質内に明らかな腫瘍性病変、明らかな肝細胞腫瘍は認められていない
・事故の約4か月後の時点で、胃癌のステージⅣだった
→「本件事故時点では、肝臓への癌の転移があったとは認められず、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたということはできない」(「一般的な癌の進行経過に照らした死亡の可能性があるというだけでは、未だ抽象的な可能性をいうにとどまり、死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたと認めるには足りない」)
と判断しました。
被害者側としては、
保険会社側から、例えば、事故がなくても、持病で死亡したはずだと主張された場合に、どのように反論していくか、参考になる裁判例といえると考えます。