交通事故における休業損害をめぐる裁判例③~「高次脳機能障害等が残存した代表取締役(事故と無関係な原因で死亡)」について、被害者本人の休業損害・逸失利益を認定するとともに、「会社についても休業損害及び逸失利益を肯定」し、これを会社解散の際に現物配当を受けた株主に認定した裁判例(鹿児島地方裁判所鹿屋支部令和4年2月7日判決)
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【問題の所在~保険会社は「会社役員の休業損害」を否定しがちです】
交通事故の賠償実務において、
被害者の方が会社役員の場合、保険会社は、深く検討することもなく、
「役員報酬だから休業損害は認められない」
と回答してくることが多く見受けられます。
(役員報酬は、事故後も減額されていないことがほとんどと思います。)
いなば法律事務所も、会社役員の方の交通事故被害事案を多く扱っており、
示談交渉で、何とか解決できた場合も多くありますが、
訴訟にまで至った場合も、多々、あります。
【裁判所はどのように考えているの?】
このような「企業損害」について、
最高裁判所は、一定の要件の下で認めています(最高裁判所昭和43年11月15日判決、民集22・12・2614)。
しかし、実務上、大きな影響力をもつ、
「公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編・民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(いわゆる「赤い本」)の、
2021年版における「下巻(講演録編)」において、
「間接損害(従業員が死傷した場合の会社の損害)」として、田野井蔵人裁判官の論考がありますが、
平成15年5月~令和元年9月の企業損害が問題となった公刊されている判決が紹介されているところ、
・代表者が受傷し、売上又は利益が減少したことを理由とする企業損害を認めた裁判例は24件中7件
このうち、
・将来の利益減少を理由とする企業損害を認めたものは8件中1件にとどまっている、
と分析されています。
いなば法律事務所でも、示談交渉で解決できない場合は、熊本地方裁判所(支部を含む。)に訴訟提起して、
会社の損害の賠償を得るようにしておりますが(実際に、賠償を得ていますが)、
当然のように、賠償を得られる、というわけではありません。
【鹿児島地方裁判所鹿屋支部令和4年2月7日判決(交民55・1・126)について】
この判決は(担当裁判官:矢崎達也判事)、
・株主は被害者と妻の2名
・本店所在地は被害者及び妻の住所地と同一
・取締役は被害者の親族
・会社の仕事内容である工事に必要な資格を有していたのは被害者のみ
・他に従業員はいない
といった事実に照らして、
「本件会社は、小規模な家族経営の会社」であり、
「その業務の中心を担っていたのは被害者」
「被害者が受傷して就労できなくなれば、会社は事業活動を行うことができなくなるという関係」にあった、
として、
「会社の休業損害と逸失利益を認定」しました。
実務的に、参考になる裁判例と考えております。