Solution to Traffic Accidents交通事故解決ガイド

交通事故における慰謝料をめぐる裁判例①~治療に専念すべき時期に加害者側が債務不存在確認請求訴訟を提起したことなどを理由に慰謝料額を増額した裁判例(横浜地方裁判所平成28年6月30日判決)

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【交通事故において、加害者側が被害者側を訴えてくることがあります】
実質的には保険会社が主導していることがほとんどと思いますが、
加害者側が、被害者側を被告として、「被害者に対する損害賠償債務が○円を超えて存在しないことを確認する」「被害者に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する」旨の裁判(債務不存在確認請求訴訟)を起こしてくることがあります。
 
加害者側にとって、先制攻撃的な意味があるやり方です。
 
 
【横浜地方裁判所平成28年6月30日判決】
横浜地方裁判所平成28年6月30日判決(担当裁判官:餘多分亜紀裁判官)は、
治療に専念すべき時期に加害者側から債務不存在確認請求訴訟を提起され、精神的に大きな苦痛を受けたことなどを理由に傷害慰謝料額を増額しており、参考になります。
この事案で、裁判所は、被害者側が、「傷害慰謝料は本来345万円が相当であるところ、上記事情などから414万円を下回らない」と主張したところ、「事故直後は、極めて重篤な容態であり、多数回の手術を余儀なくされたことも含めて、傷害慰謝料は400万円が相当である」と認定しました。
 
もっとも、この事案は、被害者側の主張によると、加害者側は、
「弁護士法23条照会(弁護士会照会)回答結果により、症状固定時期について担当医師から時期尚早とする明確な回答を受け、かつその具体的な理由も知りながら、未だ集中治療室におり、その後も多数回の手術を受けた被害者の症状が平成24年11月22日当時既に固定したものとして、平成26年5月28日付で債務不存在確認請求訴訟を提起した」とのことですし、そもそも、被害者が下肢切断などの重傷を負った事案ですので、
加害者側の対応に相当程度の問題があったのではないかと推測されます。
 
なお、上記判決は、
・左折合図を出したのが左折開始の12.8m手前に過ぎないこと等から、加害者が適切な時期に左折の合図を出したとはいえない
・被害者の妻が、被害者が死亡した場合にも比肩し得べき精神的苦痛を被ったといえるとして、被害者の妻に150万円の慰謝料が発生する
などとも認定しています。
 
 
【現在の実務的には・・・】
実務的には、昭和年代の末期から平成にかけて、交通事故における債務不存在確認請求訴訟は多く、
大阪地方裁判所においては、全交通事件の30%程度を占めていた時期もありました。

しかし、昨今では、交通事故における債務不存在確認請求訴訟は減少しています。
 
実務上、
保険会社が治療費の支払を打ち切ってから(一括解除)、被害者が自費で治療継続をしている場合に、
保険会社が弁護士を選任して(形式的には加害者が選任した形ですが、実質的には保険会社の弁護士)、被害者に対して先制攻撃をかけてくる場合がありますが、
いなば法律事務所の経験では、訴訟ではなく調停を申し立ててくることが多い、と思います。

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